平成11年度大阪府商工会女性部代表
福本 ツヤ子さん(河内長野市商工会女性部)
<酒小売店の叫び>
    皆様こんにちは。私は歴史の山 金剛山系に囲まれました河内長野市からやって参りました。この緑豊かなまちをこよなく愛しております酒屋のおばちゃんでございます。
    当店三代目の若い世代は今、不況の長引く中、全力投球で店を守っております。
今までのようなお客様の家族への配達は大幅に減ってまいりましたが、お陰様で暖かい業務店筋の皆様方にも支えられまして誠実と気配りをモットーと致してまして店の存続に懸命でございます。
酒販店、四代目の十一才の孫は店を「継ごうか、止めよか、考え中」と言う世代で、これは何時足を引っ込めるかも分かりません。でも「蛙の子は蛙」今日は何やらたどたどしい文字で店の机を陣取りましてユニークなプライスカードに店のPRを書き込んでおります。
のぞいて見ますと「毎度ありがとうございます」と書き始めてあり、酒、米、調味料、ワイン、ビールもあります、特に酒は飲み比べがあります、是非飲み比べて下さい。と書いてありまして、お中元、お歳暮もやっていますと忘れずに書き添えてくれております、私は嬉しくなって、春仁 さすがやネーと誉めてあげました。でも孫はまだ十一才、ひょうたん流れてどこへ行くとでも申しましょうか!まだまだつかみ所がございません。
    私ども、酒販店は規制緩和にともないまして、他の業種よりもいち早く不況の波に呑まれまして早十余年の苦闘の毎日でございます。お酒の販売は免許制で毎日の受け払いの月報を月の始めには必ず税務署に提出しなければならない義務がございます。そして帳簿の定期的なチェックもありまして、昔から酒屋と言うものは、爪で灯をともす様でなければ健全な店として生き残れない業界だとも言われておりますだけに一寸したつまづきがありますとすぐに手形の決済にもひびいてまいります。
    こんな事もありました、ある大雨の日の事でした、この日も手形の引き落しの日です、あいにく、丁度三時前からどしゃ降りの雨となりました、さすがの大通りでも、人っ子ひとり通っておりません。でも集まった現金を持って私はその日もまた銀行に走りました、スカートをたぐり寄せ、靴の中まで水浸し、どしゃ降りの雨は傘の柄をつたって私の頭の上から容赦なく流れ込んできます、あわてて走っていったのですが銀行は一足違いで、もうシャッターは降ろされ、仕方なく裏口を開けていただきました。
銀行のカウンターの前にたった一人、小さくなりながら、その日の集まった有難い現金を大事に差し出して、「すみません」と頭を下げました。その上追い打ちを掛けるように「あなたとこは電話をかけないと持ってこないのは困ります、銀行も迷惑です」と銀行員の冷たいお叱りの言葉は今も忘れることが出来ません。
でも商人と言うものは信用が第一と私は弁解する余地もなく、唯びしょ濡れの足元を見つめながらじっと耐えておりました。
あの日の情景は今も胸の中にしみ込んでおります。でもこれも勉強です。また、忘れられない暖かい素晴らしい皆様との出会いもいただきました。
    平成七年、全国商工会婦人部連合会の設立三十周年を前に海外視察研修が企画され全国の婦人部の方々と共に始めて参加させていただいた時の事です。
林会長を団長に私どもはバンクーバーでの商業開発セミナーを受講致しました。
そのセミナーの中でカナダで活躍をされておられる日本の女性起業家でビールの製造業のオーナーでもいらっしゃる小松和子さんと言う方の講義を伺いました。最後に質問の時間をいただきまして私は質問を致しました「日本では酒類の販売は免許制ですが、今大型店の進出で価格破壊がつづいて業者の方は困っております。カナダでは酒類の販売はどのような状況でございますか!」とお聞きしますとオーナーは、私は価格破壊と言うことはいやな言葉です、嫌いですとまるで怒ったような声を大にしておっしゃいました。
こちらは品物が安ければ良い、売れると言う時代はもう過ぎております、本物の時代、品質を選ぶ時代が来ております。お互いに生き残っていく道はリーダーの育成とその若者を教育する女性の皆様方の肩にあり、これから心の時代で勝負ですと、このように強調されました。
    その後、すぐに向こうの端の席にいらっしゃる婦人部のお一人の方がつかつかと私の前にやってこられて、こうおっしゃいました。今あなたは本当に良い質問をして下さいましたね、実は私の家も酒販店をしております、でもこの旅行から帰りますと親族会議が待っております、会議を開いて、その上で店を続けるかどうか決めることになっておりますと言われ、私はもう余りにも突然の事だけに一瞬言葉を失いました。そして同じ酒販店と言う立場に「明日は我が身」と胸に刺さる思いでした。
始めて出会った私に聞いて欲しい…・話さずにはいられなかった…・と言う彼女の胸の中とその事に至るまでの心の痛みが、苦闘が同業者として痛いほど分かりました。
その婦人部の方は確か関東方面のお人と伺いました。
私は戻られるその後姿をみながら、どうか今までの苦闘の一滴でも残して欲しいとただただ祈りました。
    これが全国酒類小売店の叫びなのです。小規模事業者の叫びでございます。私ども福本酒店はまもなく百年を迎えます、たくさんのお客様に支えられまして、ここまでやって来ることができました。
私は酒販店の主婦として夫と共に大切な店を、命を燃焼して守ってまいりました。
「継続こそ力です」支えて下さったお一人、お一人への感謝の心を忘れることなく次の世代は、どうか苦しみを糧にねばり強く、しなやかに時代を生きぬいて欲しいと私は心から願っております。
 
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